Memories - 年の差恋愛 -

何？

普通じゃないこの状況に、ドキドキが止まらない。

「河本さんだろ？俺のこと忘れちゃた？」

見た目は真面目そうだけど、その言葉使いがなんだかすごく軽くて。

にやにや笑いながら綾に話しかける彼を見て、気持ち悪いとさえ思えてしまう。

「知りません。人違いでは？」

相変わらず彼の顔を見ることもせずに空になったグラスを握ったままの綾。

強気な口調だけど、手に力が入っているのがわかる。

「ふーん。まあ、いいや。近くでＯＬやってるって聞いたけど、本当だったんだね」

彼はポケットから名刺を一枚取り出すと、その裏に何やらメモをしてから綾の目の前に置いた。

「連絡してよ。ゆっくり話がしたいな」

くすくすと笑いながら店の奥のほうへ歩いて行った彼を、無意識に私は目で追ってしまった。

彼がたどり着いたテーブルには、同じ会社の人だろうか？スーツの団体が居て。

こちらをちらっと見てから席について、それからこちらを振り返ることはなかった。

「あ、綾？大丈夫？」

綾の苗字を知っていたってことは、まったく知らない人じゃないのは確かなこと。

でも、綾の態度からするととても友人と呼べる人ではないんだとわかる。

「…ごめん、店変えよう」

「う、うん」