魔神戦記!
 
………空に浮かぶ巨大な『凶の字』は、次の日になっても消えていなかった。


そればかりか真ん中のXが裂け目のようになっていて、不気味な二つの瞳がギョロギョロと世界を監視するように動いていた。

時折、まばたきをしてみせるところに芸の細かさが感じられる。


人々は、空の『凶』に気付いていない。

恐らく凶が『存在』を操って、普通の人の目には映らないよう細工しているのだろう。


「狼牙、さっきから空ばかり見てどうしたの?
今日は雨なんか降らないわよ」

朝の登校中、さゆりは俺の落ち着かない様子に気付いたようだ。


「いや、雨じゃ無いよ。
鳥のフンに当たる夢を見ちまってな、どうも上が気になるんだよ」

我ながら見事な言い訳。



「あの………
アナタが白銀狼牙?」

不意に後ろから、一人の女生徒が俺を呼び止めた。


ウチの高校の制服だが、俺の知り合いでは無い。

(可愛い娘だな…)

さゆりよりも少し垢抜けた感じで、歳の割に色っぽさを感じる娘だ。

制服の上からでも分かるプロポーショナルの良さ。

風にサラサラと靡(なび)く腰まで伸びた髪。

普通の娘と違うのは、その髪の色が青み掛かった銀色だということ。

染めた感じでは無い。
外人か?


「うふふ…
私に惚れちゃった?」

…自惚れ屋でもあるようだ。


< 23 / 232 >

この作品をシェア

pagetop