ついてなかった人
 「じゃあ本当の名前と、何故18年間いなかったか教えてよ」

 そう聞く僕に自称背後霊は口許をニヤリと歪ませて、しばらく溜めてから決め台詞を吐くかのように格好つけて言う。

 「それを聞いたら腰を抜かすわよ」
 「あなたマクベスですか!」
 「あら、私の前世の名前を知ってるなんて、ベスびっくり」
 「マクベス実在してたんだ!」
 「ん、私の心の中にね」
 「かっこいい!?」

 いやシェークスピアの戯曲だから。てかボクのツッコミの守備範囲ギりのフリだった。
しかし被せられた事により、心にもない褒め言葉を吐いてしまった。
 つーか、前世がマクベスとか言っときながら、心の中にとか言ってるあたりむちゃくちゃだこの人。
 いや人ではないか。人でなし。

 「せっかくのツッコミを否定させてもらって悪いんだけど、マクベスは実在してたからね」
 「嘘!」
 「嘘! 本気で実在してないと思ってたわけぇ!」

 し、知らなかった。。
 てっきり架空の人物かと。
 ちょっと恥ずかしい。

 マクベスは天井までわざわざ浮いて、僕を見下ろした。
 いや、見下した。

 僕は体勢を立て直すべくベッドから立ち上がって、椅子に座りなおした。

 「その動きに意味あるのかしら」

 マクベスはふわりと移動して、机の上ぎりぎりに浮いている。ちなみに胡座だ。

 き、きわどい。

 「ちなみに黒だから」
 「な、何がでしょうか!」
 「腹の中よ、君のね」

…………ベタな返しだった。
 こんなの、十分に予測できるはずなのに何をうろたえてるんだ僕は……

 そもそも背後霊って黙って後ろから見守ってる存在じゃないのか。。
 もしかしてみんな家ではこうして会話してるのだろうか。
 そう言えばたまに独り言を呟いてる人がいるなそうか、そういう事だったのか。

 「先に言っておくけど、君みたいに背後霊と話せるなんてラッキーよ。普通は姿だって見せないのだから」

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