【短編】雪うさぎ
そんなとき一本の電話が鳴り、おばさんに赤ちゃんが生まれたことを告げた。


うさぎが嬉しそうに小躍りしているのを見て、俺はほっとして、居間のドアを開け声をかける。


「妹うまれたんだって?おめでとう。お姉ちゃんじゃんか」

「ゆうちゃん」

と嬉しそうに振り返り、俺に駆け寄ってくる。


ドキンと心臓が大きく跳ねる。



「うん、お姉ちゃんになった。」

にっこり笑って答えるうさぎに

先ほどの不快感とは違う安堵感を覚えた。


「うさぎがお姉ちゃんかあ。お姉ちゃんは泣いちゃダメなんだぞ。」

と、言ってみた。

うさぎがとても不安で、今にも泣きそうな笑顔をしていたからだ。

たぶん、ホッとしたと同時に不安になったんだろう。


俺は弟が生まれたときのことを思い出だした。

嬉しさの半面、孤独や重圧、漠然とした不安といった目に見えない不快感が俺を襲ったのを覚えている。


「泣いちゃダメなの?何で?ゆうちゃんはおにいちゃんだから泣かないの?」

「うん、弘樹が泣いてるのに俺が泣いたらお母さん困るだろ?
だからお兄ちゃんは泣いちゃダメなんだ。」


俺が足元でコタツに入って眠っている五つ下の弟を見つめながら言うと

「ゆうちゃんは泣きたいとき無いの?」

と聞く。



一瞬、心を鷲づかみにされたような気がした。





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