【短編】雪うさぎ
「どうしたの?手冷たかった?」

少し赤くなった手を握り締めてゆうちゃんは困ったように問い掛けた。

「ううん、わかんないけど涙がでるの。」


ゆうちゃんはゆっくり私を抱きしめてくれた。

私と身長がほとんど変わらないゆうちゃんの、ちょうど肩の辺りに顔を埋めて涙を流す。

今思えば、母が妊娠してからの孤独感や、両親の不在による不安
お姉ちゃんとなった喜びと重圧、様々な不安が私を包んでいたのだと思う。

そんな複雑な想いを、その時の私には理解できるはずも無かったが、ただ、ゆうちゃんの腕の中はすごく心地よくて、髪を撫でてくれる小さな手がとても嬉しかった。


「うさぎ。約束して」

「うん?」


ゆっくりとゆうちゃんを見ると、真剣な顔で私を見つめる彼がいた。


「約束して。俺の前以外では絶対に泣かないで。」

「え?う・・・うん」

「絶対に、うさぎの事護るから。
だから泣かないで。泣くのは俺のそばだけにして。」

「うん。約束する。ゆうちゃんの前以外では泣かない。」


ゆうちゃんが余りに真剣な顔をして言うのと、
『おねえちゃんになったら泣いちゃダメなんだよ』
と、言ったゆうちゃんの言葉を思い出して、私は頷いていた。


「そのかわり、ゆうちゃんも約束して。
泣きたい時は私のところに来て。
絶対に一人で泣かないで。」


ゆうちゃんは少し驚いたように目を見開いた後


とても綺麗に微笑んだ。


「うん――約束する。」


今も忘れない

あの時のゆうちゃんの笑顔を…。


街灯のおぼろげな光の中

暗闇で光を反射して浮かび上がる雪景色に

彼の笑顔はとても美しく幻想的で


まるで天使のようだった。




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