サクラ、咲く
「姫」



家臣が私を呼ぶ。



私は「姫」っていう名前じゃない。



私は「姫」なのか「織衣 夕」なのか。



本当の自分はどっちなのだろう。



「何ですか?」



「は。姫に会いたいという者がおりまして…。」



「私に?どうぞ。連れてきて」



「し、しかし…」



いつもなら「かしこまりました」とか言って、連れてくるのに。



きょうの新平(家臣)は、歯切れが悪い。



「しかしって、何?」



家臣は年下の私におどおどしながら、顔をこっちに向けた。



「百姓の者でして…」



百姓?
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