青ビーダマ
「はーあ、おばば達は限度っつーもんを知らないのか。」
そう言いながら、氷室は頭の後ろをかいた。
小夏は氷室の後ろを歩いて、顔をニヤけさせていた。
「まぁまぁ、いーじゃん。私達をからかう事がおばさん達の楽しみなんだから。」
「お前も、嫌な事はきっぱり嫌って言えよ?」
今の氷室の言葉に、小夏は体を少しビクつかせた。
自分が氷室の事を"好き"と言うのを知らない事を今思い知った。
分かっていた事なのに、なんだか少し悲しくなってきた。
「…そうだね。」
氷室は今の小夏の反応を見て、少し首を傾げた。
あと顔が、哀しげに見えた事も。
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「本当にいーの?」
小夏は自分の家の前に居て、別の家に入ろうとする氷室を見つめた。
別の家と言っても向かいだが。
「あぁ、まぁよく考えりゃ、俺は男だしな。」
無邪気に笑っているのに、少し過激な事を口にする氷室に対して、苦笑いをした。
「馬鹿。」
「どーせ馬鹿だよ。じゃメールすっから、じゃあな。」
手の平を見せてドアを開ける氷室に、小夏も笑顔を見せて手を振った。
氷室が家の中に入った途端、緊張が途切れて笑みがこぼれた。
こんな姿絶対に見せられないと思った。