台風が、来るまえに。
「いい年したおじさんが、こんなヌイグルミ大事にしてる方が頭おかしいよっ!!!」

私は窓から古臭いテディベアを投げ捨てた。


「梓っ!!なんてことを!!」


「あっ、あなた危ないっ!!!!」

…ヒュー…ドンッ

「イヤー!!あなたー!!」



…ピーポーピーポー








♪ピピピピッ ピピピピッ♪
「ハッ!!……またかぁ。」


この人に抱かれた後は、いつもこの嫌な夢を見る。

思い出したくない過去…
消し去りたい記憶…








隣にいるのは私より25歳も年上の杉原さん(42歳♂)。

ITの社長をやっているらしい。


身につけている物は全て高級ブランド品。



一度もねだったことないのに、毎回会うたびに私にブランド品をプレゼントしてくれる。

景気がいいのか、帰り際にはタクシー台と言って20万円くれる。






杉原さんにとって、私は愛人なのかもしれない。

単なる浮気相手の一人。
何人かいる内の一人。





でも、私の中では違う。


私は杉原さんのことを愛してる。

心の底から愛してる。




杉原さんの1番には、なれないってことくらいわかってるけど…


…それでも良いと思ってしまう自分がいる。



それくらい杉原さんのことが好きなんだ。






杉原さんには、奥さんがいる。

2人の子供がいる。



カワイソウなんて全く思わない。

だって、奥さんも子供も杉原さんの1番だから。



絶対1番になれない私の方がカワイソウ。






杉原さんはお金の入った封筒を枕元に置き、
上着の内ポケットに閉まっておいた指輪を薬指にはめて静かに出て行った。



私はいつも寝たふりをしながら薄目を開けて杉原さんの一連の動きをじっと見つめる。

起こさないようにソーっと行動する杉原さんの優しさが逆に悲しかった。
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