准教授 高野先生のこと

雑誌を元の位置に戻してふと顔を上げる。

すると、ガラス越しのまっすぐ向こうに――

横断歩道を渡ってこちらに歩いてくる高野先生の姿が見えた。


先生は私とバチっと目が合うとニコっと笑って、少し急ぎ足で歩いてきてくれた。

その姿が……なんだかとても眩しく見えた。



「いっぱい、待たせちゃいましたか?」

「そんなことないです、ぜんぜん……」


土曜と日曜の違いってカレンダーの日付の色が黒か赤か、そのくらいだと思ってた。

だけど……ぜんぜんそうじゃない、そうじゃなかった。


「じゃあ、行きましょうか」

「はい」


私のバッグに小難しい国文学のテキストが入っていないことも。

高野先生がジーンズにコンバースのハイカットのスニーカーを履いてることも。

そんな二人のどれもこれもが、みんなみんな嬉しくて。

私はこの秋晴れの空の下を、先生の手をひいて今にも走り出したい気分だった。



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