准教授 高野先生のこと
「そういえば、ゼミでけちょんけちょんにやられてるって?」
森岡先生は目を輝かせて言った。
「そうですよ、もう」
大学院のゼミはかなりハードで。
私は先輩たちに、いつもいつもこてんぱんに論破されていた。
「鈴木さんは、もっとちゃんと理論とかやんないとな」
「わかってます、自分でも」
同期の中でも文学研究の基礎知識の差は歴然だもの。
「そもそも、君の研究は――」
うぅ、旗色が悪くなってきた……。
そろそろ脱出の頃合かと思ったそのとき。
ドアをノックする音がして――
「はーい、どうぞー」
「森岡?あっ……」
「あっ、先生」
訪問者は高野先生だった。