准教授 高野先生のこと
「いい時間ですね。そろそろ我々も帰りましょう」
「はい」
先生と私はそれぞれに帰り仕度を始めた。
「送らせてくださいね」
「ええっ!!」
あまりの思いがけない申し出に私はひどく驚いてしまい――
「そ、そんなに驚かなくても……」
逆に先生まで驚かせてしまった。
「すみませんっっ」
「いえいえ、謝ることでは」
「でも、バスもありますし」
「何言ってるんですか。こんな時間ですよ?」
この時間になると、バスの数はさすがに極端に少なかった。
「大丈夫。運転は普通のつもりです」
もちろん、私はそんなこと心配しているわけじゃなかった。
けど――
先生のそんなトンチンカンなところに、私はさらに心を鷲掴みされてしまった。