准教授 高野先生のこと
中央郵便局の駐車場。
私は車の中で時間外窓口へ行った先生が戻るのを待っていた。
ごちゃごちゃした感じがなく清潔で、一切何の飾り気もない簡素な車内。
煙草の匂いもなかった。
森岡先生は、たしか奥さんの妊娠を機に煙草をやめたけど。
どうやら高野先生は愛煙家ではなさそうだ。
もっとも、高野先生には煙草なんて似合わない気もするけど。
先生がいない先生の車の中で、先生のあれこれを想像してみる。
この助手席に女の人が乗ったことがあるんだろうな、とか。
いろんなこと……。
窓の外はすっかり夜で、車の中もやっぱり夜で。
先生がかけていったラヴェルのピアノ曲が、ゆっくり静かに流れていた。