准教授 高野先生のこと
「何か、おまじないとかないですか?」
「人、人、人って書いてぺろりと……」
「もう、いいです」
「そうだ、深呼吸がいいよ」
「ヒ、ヒ、フー」
「秋谷さんだね……」
「私、上手くて完璧らしいんです」
「なんか、僕、ちょっと複雑……」
「先生」
「ん?」
「もういっその事、一思いに……」
「そんな、捨て鉢にならないでよ」
「なんかね、もう叫びたい感じです」
「なんて?」
「お父さーん!お母さ」
「詩織ちゃん、こんなときに親を出すのは反則だよ」
「じゃあ……狼が来るぞーっ!」
「所詮、僕は羊だよ」
「時代は草食系ですよ、偶蹄目で」
「詩織」
「あの……」
「君は緊張しすぎです」
「だって……」
「騙されたと思って、本当に深呼吸してごらん。ヒ、ヒ、フーじゃないやつね」
「……」
「そうそ、落ち着いて」
「……あの、えと……」
「意外と侮れないでしょ?深呼吸って」
「……あぁっ……」
「ほら、ねっ」