准教授 高野先生のこと
ぽつりぽつりと次第に言葉すくなになってきて、ほどなく先生は眠ってしまった。
枕になっていた先生の腕をそーっと元に戻して、ひっそり隣りに横になる。
そうして、これ幸いとばかりに私はまじまじと先生の寝顔を観察した。
誰でもそうなのかもしれないけど、寝顔というのはとても無防備で。
先生が普段周りの人に与えがちな神経質な印象はちっともなかった。
いつまで見てても飽きないなぁ、なんて。
私はしばらくそうして先生の寝顔を眺めた。
先生にとって今日は32歳最後の日。
そして――
日付変更線を越えた明日は33歳最初の日。
1年に1度しかない、その最後の夜と最初の朝を一緒にすごせるなんて。
幸せすぎて怖いくらい。
こんなに幸せでいいのだろうか、と。
来年も再来年も、ずっとずっと、こうして先生の隣りにいられたら……。
そんなことを思っているうちに、だんだん瞼が重くなってきて――
私は先生の規則正しい寝息を聞きながら、綿のようにくたりと眠っていたのだった。