准教授 高野先生のこと

実は私は今日、ある大きな課題を自分に課していた。

これはおそらく付き合い始めた男女が直面する初歩的な問題のはず。

私だけでなく同じように困ったり悩んだりしてる人はきっといるに違いない。


「先生」

「なんでしょう、鈴木さん」

「……」

先生のこの底意地の悪さといったらどうだろう。

だけど、私には先生を責める権利がない……。

「まあねえ、僕がこの商売を辞めない限りずっと“先生”なんだけどね」

先生はよくこんな言い方をする。

“教員稼業”とか。

“本が商売道具だから”とか。

先生のこういう言い方ってけっこう好きだなって。

なんとなくいいなって私は思う。


先生は私のことを“詩織ちゃん”と呼んだり“詩織”と呼んだりする。

だけど私ときたら……。

こんな風にパジャマ姿で一緒に朝ごはんを食べているのに。

もはやただの学生と教員の関係なんて越えちゃってるのに。

いまだに“先生”なのだから……。


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