准教授 高野先生のこと

「ご自宅用なんだから簡易包装でぜんぜんじゅうぶんじゃないですか」

「ご自宅用かぁ、なんかいいかも」

「ねっ、いいでしょ?」

「うん、すごくいい」

今日一番の先生の笑顔を見たような、そんな気がした。

なんとなく言った言葉だったけど、自分でもとてもいいなと気に入った。

先生のご自宅用の私。


「詩織ちゃんは明日は何限から?」

「2限です」

「僕、1限からなんだよなぁ」

「私……」

「うん?」

「ちゃんと授業出ますから、だから……今日も泊まっていってもいいですか?」

「僕は嬉しいけど……でも……」

「だって、誕生日じゃないですか」

「うーん」

先生は眼鏡を外すと隣にごろんと横になり、むむむと少し考え込んだ。

狡猾な私は先生を懐柔する方法を既にしっかり心得ていた。

「“寛行さん”と一緒にいたいなぁ」

「あー、もう!そんなこと言われたら帰せるわけがないじゃない」

そうして私の寛行さんはあっけなく陥落したのだった。


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