准教授 高野先生のこと
真中君も沼尾さんが嫌いだけど、私も沼尾さんがちょっと苦手。
彼はときどき私たちのような後輩を徹底的に攻撃する。
誤解のないように言うと、私は論破しようとする人が嫌なわけではない。
沼尾さんの、あら捜しをするような狡猾な攻め方がどうも好きになれないだけ。
だって、彼は明らかに相手に理解を求めて戦っているのではないのだもの。
なにせ勝ち負けの論理の人で、相手を負かすこと自体が目的だから。
発表者を窮地に追い込んだ時の、沼尾さんのしたり顔がすごく不快。
この人はなんで文学研究なんてやっているんだろう?と、謎で謎でしかたない。
後輩の私が言うのもなんだけど、沼尾さんには研究に対する何かが欠けている。
その欠落したモノとは、たぶん言うなれば“愛情”なのだと私は思う。
私がこんな風に言い切れるのは、やっぱり高野先生を知っているからに他ならない。