准教授 高野先生のこと
真中君は興奮気味に今日の出来事を雄弁に語った。
「沼尾さんからの攻撃で苦戦していたら鈴木さんが助太刀してくれたんですよ」
「助太刀だなんてそんな……」
初めは見るに見かねてちょっと助け舟を出すだけ、それだけのつもりだった。
けれども――
運悪く今日はいつもなら調整役になってくれるようなD3の先輩がいなかった。
そのうえ参加者は真中君や沼尾さんと専門もテーマも遠い人が多くて。
そんなことが重なって、なし崩し的に私は二人の戦いに参戦することに……。
それから――
内容が理論の話になってくると真中君は他力本願に私まかせになってきて。
気がつくと私が矢面にたって沼尾さんとの一騎打ちを繰り広げるはめに……。
「もうね、沼尾さんなんて塩かけられたナメクジみたいでしたよ」
勝ち誇ったように話す真中君の表情はすごく満足げで嬉しそう。
私だって日頃の真中君に対する沼尾さんの仕打ちをよく知っている。
だから真中君を強く責めるのは気の毒なんだけど――
だけど、さすがにこれは“ちょっといかんぞ”と、たしなめたくなった。
そんなとき、さっきまで黙って真中君の話に耳を傾けていた先生が――
「確かに、ときには戦う勇気も必要ですが……」
責めるでもなく咎めるでもなく穏やかな口調で話し始めた。