准教授 高野先生のこと

先生って仕事に愛情がある人なのだ。

そして、先生のそういうところも私はたまらなく好き。

ふと真中君を見るとガッツーンと心を打たれたらしく、やや放心状態?

秋ちゃんはふむふむほうほうと、思うところを頭の中で咀嚼しているようだった。


ちょっと間があって、それから真中君は拳を握ってきりりと先生のほうを見た。

「ボク、愉快な力持ちになります!」

なーんじゃ、そりゃ……!?

こういうのを見ると、ほんっとつくづく思ってしまう。

微妙なトンチンカン加減が高野先生風味だなって。

なんだかちょっと可笑しくって微笑ましい。

「高野サン、真中はあんなこと言ってますけど愉快な力持ちになれますかねえ?」

秋ちゃんがわざとニヤリと意地悪く笑う。

「なれますとも。真中君には運・鈍・根の全部がありそうですからね」

研究者に必要な三大要素、運・鈍・根。

運のよさ、鈍感さ、根気強さ。

コツコツやり抜く根気、自分への誹謗中傷に対する鈍感さ、機会を逃さない運の良さ。

「きっと良い研究者になりますよ」

僕も負けてられないですね、と先生はゆったり微笑んだ。

真中君は嬉しさと感激で、泣き出しそうな子どもみたいに表情を歪ませた。

その顔は勝ち誇った満足げな表情よりもずっとずっといい顔だった。



< 319 / 462 >

この作品をシェア

pagetop