准教授 高野先生のこと
15.高野寛行の過去

12月に入って最初の土曜日。

高野先生からお手伝いを頼まれていた学会当日である。

会場はF女学院大学の大教室で、発表大会の開始は午後1時。

会場の設営も手伝うことになっていた私と真中君は、午前中には会場に来ていた。


「今日は二人ともよろしくお願いしまね」

「ハ、ハイッ!」

何やらめちゃめちゃはりきっている真中君。

どうやら尊敬する高野先生の力になれるのが嬉しくてたまらないらしい。

「学内のことは詩織さんが何でもご存知ですから、迷う心配はなさそうですね」

先生が“そうだよね?”と確認するように私を見たので、私はこくりと頷いた。


今日の先生のネクタイは私がお誕生日にプレゼントしたあのネクタイ。

ここへ来てすぐ、目があった瞬間に私と先生は“あーっ!”と通じ合った。

“ネクタイ、そうくると思いました”

“やっぱり?”

“もちろん、それくらいわかりますよ”

二人だけの、ささやかな秘密

先生と私だけの、密やかな楽しみ。

秘密の“密”は、時として“蜜”だったりもするんだって。

前に秋ちゃんが、ちらっと言っていたけど。

今の私の気持ちってまさにそういうことなのかも???

なーんて、ちょっとドキドキ……。


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