准教授 高野先生のこと

私がちょうど高野先生の研究室に来ていたあの日。

奥さんが入院したと言って血相を変えて飛び込んできた森岡先生。

あの尋常じゃない狼狽えようには私の知らない深い事情があったなんて……。


「高野とは付き合い長いし、うちの奥さんのこともよく知ってるからさ」

高野先生は森岡先生と同期でマブ。

しかも、高野先生は森岡先生の奥さんの良き相談相手。

「鈴木さんにも迷惑かけちゃったみたいでさ、すまなかったね」

「そんな……私なんて、ぜんぜん」

「持つべきものは同期だよ、まったく」

この間の、高野先生の言葉が頭をよぎる。

“僕はね、あの二人がいなかったら完全に人間不信に陥っていたと思うんですよ”

それほどまでの信頼関係ということは――

当然ながら、森岡夫妻は高野先生の学生時代を公私ともによく知っているはず。

私の知らない高野先生の学生時代も、大学教員になってから今までのことも。



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