准教授 高野先生のこと

“なんとなく”を装って森岡先生に思い切って聞いてみる。

「学生時代の高野先生って、どんな感じだったんですか?」

瞬間――

目線を手元に落としたまま、森岡先生の作業する手がぴたりと止まった。

「むかしの高野?」

表情は見えないけど明らかに怪訝そうな雰囲気に思わずぎくり……。

けれども、会話が途切れてしまうのは不自然すぎてまずいと思い――

「いや、なんか……想像つかないなっ、て」

見られてもいないのに作り笑いを浮かべながら、どうにかこうにか言葉をつなぐ。

森岡先生はというと、一転、口笛でも吹くみたいな軽やかな調子で――

「本人に聞いてみたらいいんじゃない?」

そう言って、何にも気にしてない様子で再び作業を再開した。

私は少々不可解に思いつつ適当な答えをして返した。

「そうですね……機会があったら」

本当は、今のところまったくそんな気ないけれど。

森岡先生から何も聞きだせなくてちょっと残念。

けれども――

そう思う反面、どこかほっとしてる自分もいる。

「鈴木さんになら……」

「え?」

はっとして顔をあげると――

「あいつ、話してくれるんじゃないかな」

ややこわばった私の視線が先生の静かな視線とぶつかった。




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