准教授 高野先生のこと
今度こそもう、さすがに言葉が出てこない……。
「あの、森岡先生……」
私になら話してくれるって、それって……。
今まで森岡先生が私と高野先生の関係を詮索してきたことはない。
私は高野先生の研究室に来たときは必ず森岡先生のところも訪ねていた。
けれども――
先生は、たぶん奥さんのこともあってか早々に帰宅されていたり。
私が来る曜日は森岡先生の講義がつまり気味の曜日だったり。
そんなわけで、ここ最近はめっきりお話しする機会が少なくなっていた。
考えてみると――
一番最初のきっかけは並木先生だったにしろ、森岡先生だって……。
高野先生の見舞いに行けとけしかけたりして。
病に伏せる高野先生の自宅の住所を教えたのは森岡先生だ。
そりゃあ、どこまで本気だったのかは定かでないけど。
だけど――
それがきっかけで私は高野先生に手紙を書いて、返事がきて……。
「鈴木さんは、業界の噂とか伝説に詳しい事情通……な、わけないよね」
森岡先生はそう言ってくすりと笑うと、勢いつけてすっくと椅子から立ち上がった。