准教授 高野先生のこと
4.お手紙書いた
10月のはじめ。
私は並木先生の急なおつかいで母校を訪れることになった。
本来なら複写依頼をかけて簡単に済む用事なのだけど。
誰かが出向くまでもなく待ってさえいればいいだけの。
ところが――
その“待つ”余裕が1ミリもなかったのだから仕方がない。
なにしろ並木先生は締め切りを目前にモーレツに急いでいて。
可及的速やかな対応が不可欠の状況だったのである。
ちなみに――
並木先生は締め切りギリギリにならないと火が付かない人。
典型的なイササカ先生タイプ。
さすがの先生も私に頼みつつ今回ばかりはひどく恐縮していた。
「僕の不徳の致すところで……」
「いえ、ぜんぜんです。私が適任だと思いますし」
私は迷うことなく二つ返事でOKした。
ひょっとしたら高野先生に会えるかもしれない。
もちろん、そう思ったから。