准教授 高野先生のこと
女の人と凄まじいケンカをする高野先生なんて私にはとても想像できなかった。
正確に言うと――
想像できなかったのは凄まじいケンカをする先生と私かも……。
田丸先生はお茶をゴクゴクと飲んでから気を取り直したように再び話しはじめた。
「口喧嘩っていうよりも口論って感じで、しかけるのは涼子ちゃんからだったなぁ。
熱く捲くし立てる涼子ちゃんと、どこまでも冷静な高野って構図でさぁ。
高野が冷静であればあるほど、涼子ちゃんはイライラしちゃってね。
仲が良いときは本当に良くて、見ているほうが恥ずかしくなるくらいべったりなのに。
まーあ、穏やかなカップルじゃあなかったね、高野んとこは。
学部の3年あたりから付き合い始めて、確か……D2にあがる頃に別れたんだな」
田丸先生はそこまで話すと、ふーむと何か思いをめぐらす表情をした。
どうして高野先生は“涼子ちゃん”と別れることになったのだろう?
すごく聞いてみたかった。
だけど、これ以上根掘り葉掘り聞くことはやっぱり少し気が咎めた。