准教授 高野先生のこと
16.水色のラブレター
まったく師走とはよく言ったのものだ。
PCに向かってもくもくと仕事してる寛行さん。
日曜の午後だというのに、しかも昨日あれだけ忙しく働いたというのに。
学会のあった日の翌日の朝。
朝昼ご飯を食べて、さあて食後のヨーグルトをやっつけようかというとき――
寛行さんは食後の紅茶を飲むのもそこそこに、カップを持って立ち上がった。
「ちょっと、仕事させてね」
彼を見上げて、小さなスプーンを持ったまま黙ってこくりと頷く私。
壁にかかった時計、窓の外の天気、彼を見守る私……彼がそれらを順番に見遣る。
「あの時計の長い針が12のところ、短い針が2のところになるまで――」
仕事で私を待たせるとき、彼は決まってこの言い方をする。
「お利口に待っていてくれますか?」
私はさらに黙ってひとつ頷いて、ヨーグルトのカップのふたをぴらーっとめくった。
時計の針のお約束を、彼はまだ一度もたがえたことが無い。
私への気遣いもあるけど、彼はそうして時間を決めてきちきち仕事したい人なのだ。