准教授 高野先生のこと
森岡先生はちょうど講義から戻ってきたところだった。
「鈴木さん?って、ずいぶんとまた大荷物だなぁ」
森岡先生がいつもの調子でのんびり笑う。
「先生、あのっあのっ……」
「ま、とりあえず入りなさい」
「はい……」
私は両手に荷物を抱えながらよたよたと研究室へ入った。
「高野はさぁ、昔から呼吸器系が弱いらしくってさぁ」
やきもきする私の心とは裏腹に、あいかわらず暢気な口調の森岡先生。
「あーあ、補講確実だもんな。学生から非難轟轟だよなぁ」
先生はそう言うと、大きなあくびをして体を反らせて伸びをした。
「先生そんなっ……他人事だと思ってひどいですっ!」
思わずむきになって抗議する。
「まあまあ、鈴木さん」
そんな私を森岡先生はどうどうと宥めた。