准教授 高野先生のこと
どこの家にもその家独特の匂いというのがあると思う。
よそのおうちにお邪魔したときに感じる、鼻をかすめるちょっとした違和感。
寛行さんのうちのドアを開けた瞬間、もう私の鼻は何の違和感も感じなくなっていた。
何しろここは、もうすっかり私のウチになっているから。
やっぱりウチが一番ねぇ、なんて言いたくなるくらいに。
部屋の中に、今朝のけさまで彼がここにいた痕跡がそこここに残っている。
たぶん朝ごはんのときの洗われないまま流しに残された食器たち。
読んだあと大雑把に畳まれて無造作にテーブルの上に置かれた朝刊。
今夜彼は留守だけど、ここにいれば彼の空気を感じることができる。
感じるほどに余計に彼が恋しくなって、ちょっぴり切なくもなるけれど……。
ここは彼の家だから、彼が帰る場所はここだから。
そう思うと安心できて、彼を想いながらやっぱりここで待っていたかった。