准教授 高野先生のこと
17.誰がために祈る
秋ちゃんから電話が来たのは、出産予定日の前々日のことだった。
「そういうわけで、入院したからさ」
「生まれる兆しはまだないんだ?」
「うん。居心地いいらしくってさぁ」
最後の定期健診に来て、そのまま入院することになったという秋ちゃん。
だけど、その声には不安な様子は微塵もなく元気そのものって感じだった。
それにしても、生まれる兆候もまだないのに急に入院だなんて……。
それは“羊水過少”が原因なのだと秋ちゃんは教えてくれた。
何を言われても妊娠・出産にまつわる話って正直いまいちピンとこない……。
お腹の中の羊水量が異常に少なくなってしまう状態が羊水過少。
羊水が減れば赤ちゃんを包んでいるクッションも薄くなる。
外的衝撃による危険も多くなるし、その他諸々の細かい注意も必要に。
「今んとこは様子見で、とりあえず普通に陣痛くるのを待ってる感じでさぁ」
「そっかぁ」
「もうね、暇で暇で。お見舞いプリーズ」
「えっ、いいの?」
「もっつぃろん。なんか美味しいおやつ買ってきてん♪」
「えーっ、怒られない?」
「ちょっとくらいなら大目に見てくれるみたいよ。心の平安も重要だかんねー」
「じゃあ、松蔵のスイートポテト?」
「いえーっす!」
秋ちゃんってやっぱり大物だよなぁと、私は改めて感服した。