准教授 高野先生のこと
出産という大仕事を終えた秋ちゃんの感想は――
なんというか、秋ちゃんらしい?というか……。
その衝撃的な言葉は、お見舞いに訪れた我々三人を驚愕させた。
「「「恐怖体験!?」」」
「んだからぁ……感動の涙なんか流す余裕なかったっスもん」
妊娠期間中をほぼ完璧に問題なくすごしきった秋ちゃんだけど、お産は難産だった。
「通常の2.5倍以上の出血で。まあ、そんときはさすがに何もわかんなかったけど」
「それってどれくらい?」
「1300とか。ん?あれ?1400か???まぁ、そんくらい?」
「1リットルの牛乳パック1本ちょい?半?秋ちゃん出血大サービスだったね」
「んだよ。しばらく貧血でさぁ」
秋ちゃんが淡々と語る生々しいドキュメンタリに情けなくも男二人が青ざめる。
「じょ、女子ってすごいね……」
「本当に。母は強し、ですね……」
「まったく、男は暢気でいいですよ」
そんな二人を、母の貫禄で一笑にふしてしまう我らが秋ちゃん。
夏川さんは、そんなやりとりをすっかりお父さんの目で見守っていたけど――
「それにしても、真中クンと鈴木サンだけでなく、高野サンまで来て下さるなんて」
ふとそう言って、寛行さんに視線を向けた。
ほんの一瞬、緊張こそ走らなかったけど明らかな“間”があって……。
寛行さんは徐にこう言った。
「虎の穴の仲間ですから」
なんでもない風に、にっこりと笑ってのける寛行さん。
その様子が妙におかしくて……。
私たち虎の穴の子どもたち3人は、思わずいっせいに吹き出した。
ただひとり困惑気味の夏川さんは――
「虎の穴、ですか……?」
置いてけぼりな感じで、ちょっと可愛そうだった。