准教授 高野先生のこと
6.モテない理由
高野先生と私の関係はとくに前進も後退もしないまま。
けど、先生は私のことを「詩織さん」と呼ぶようになった。
これって一見するとすごーい進展にように思われる。
ところがこれには理由があって――
からくりというか、事情というか、ワケというか……。
「3人も、です」
高野先生は、たいへん感服したという口調でそう言った。
「いやぁ“高野”も珍しい姓ではありませんが」
なにかというと、先生のゼミの話しである。
今年の高野ゼミには、なんと!鈴木さんが3人も集結。
「“鈴木”さん、さすがです」
要するに先生のまわりは鈴木だらけなのである。
「トリプルなんて、教員生活で今回が初めてです」
もう“鈴木祭り”みたいなもの……。
“詩織さん”なんて呼ばれてはいるけれど、先生の脳内では――
鈴木(し)
こんなもんかもしれない、と。
私はちょっと真剣に思った。