Cold Phantom [前編]
それにいち早く気づいたのは言うまでもなく相棒のたけ君だった。
「猿、あれやってくれあれ、ニニ・ロッソの『水曜日の夜』やってくれよ。」
「あれってトランペットだけじゃ味気ないだろ。」
「そこは演技力でカバーだ。」
「演技関係ねぇ…。」
ヒロ君達のコントに部員の小さな笑いが包んだ。
ヒロ君もヒロ君で何だかんだ言いながらもやる気は十分のようだ。
笑顔のままバルブの滑りを確かめマウスピースに口を当てた。
そして静かに演奏が始まった。
ヒロ君のトランペットは高らかに力強く鳴り響いた。
高い音程も何なりと吹きならし、楽器が音を鳴らしていると言うより、楽器自身が気持ちよく歌っている自由感がその演奏にはあった。
上手い…それしか言い様がないほどヒロ君の演奏は上手だった。
3分程しか無かった曲でこれ程感動したのは久しぶりだ。
あっと言う間に終わってしまった演奏に数秒の沈黙、そして…
「おぉ!すげぇぞ今の演奏!」
そんな湯川君の声に続き拍手喝采が部室を覆う。
私もそんなヒロ君の演奏にただただ拍手するのみだった。
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