Cold Phantom [前編]
「ヒロ君…」
昨日出会ったばかりの男の子が、こんなにも凄い人物だったなんて思ってもいなかった。
にへら顔で頭に手を当てて何回も頭を下げお礼するヒロ君が私には輝かしく見えた。
同じトランペット吹きとして強く思う。

「それじゃよろしくな…って言っても教える事は少ないだろうけど。」
そう言って先生は私にヒロ君を任された。
確かに今のままではヒロ君に教えられる事なんてなかった。
部活での特別な決まり事があるわけじゃないし、練習内容なんて持っての他。
逆にヒロ君に教わる位が丁度良いくらいだ。
「どうしよう。練習する曲があれば良いのだけど…」
私は入学当時から愛用している楽譜ファイルを調べてみた。
そんなとき、ふとヒロ君を見た。
「マウスピースをつけた部分だけ唇を震わせたら音は出る。」
「先輩もそう言ってたけど、その感覚が解らないんだよ。」
「なら、練習あるのみだな。」
ヒロ君は犬塚さんを教えていた。
教えなくちゃいけない対象が既に他人に教えているのだから私に出来る事は無いも同然。
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