Cold Phantom [前編]
思えばこんなに練習時間が楽しいと思えたのは何ヶ月振りだろうか。
いつも自分だけトランペットを吹いていたので、こうして人に教える事自体久しぶりだった。
それに新入部員が良かったからだろうか、犬塚さんもヒロ君も私に対して楽しく接してくれて賑やかなパートになってくれそうな気がした。

でも…
そんな時間に身を委ねたからだろうか、ポケットにしまった携帯が震えた時、私は今日がどう言う日なのか思い出してしまった。
やらなくちゃいけないことがあった。
「生活の為」にやらなくちゃいけない事…。
私は二人と離れ、人の出入りが普段から少ないトイレに入り電話に出た。
「こんにちわ、祥子ちゃん。」
「こんにちわ、長池さん。」
私の今の心境に対し、少し明るい雰囲気のある男性の声がした。
何となく、私はその声に救われた気がした。
元々そう言う人だけど…
「あの日…ですよね。」
「覚えてたんだね。」
『あの日』を口にした時、電話の相手のトーンが少し下がった。

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