Cold Phantom [前編]
「でも、失礼な事を言うようですが姫納さんの症状に付き合ってもう5年になるのですね。」
「そうだな。思えば、今のあの子がこうして社会に打ち解けている姿を見ていると、あの時の事が嘘の様にすら思えるよ。それもこれもお前の介護あっての物だと思う。ありがとうな。」
「ふふ、どうしたんですかいきなり。」
看護師は小さく笑いながら返事を返してきた。
「あの時の祥子ちゃんは俺では絶対に手に終えなかったよ。」
「…自暴自棄になってましたね。でもあれは…」
「解ってるよ。俺が悪いんだろう。」
そう言って俺はふてくされた振りをし、看護師はまた小さく笑った。
「でも、先生は正しい事をしたのかもしれませんね。」
「そうか?」
「早いうちから真実を伝えたから、傷が小さく出来たのかも知れません。でも私にはそれだけの勇気は無かったですし。」
「俺の場合は無神経過ぎただけだよ。」
「存じてますよ。」
「即答で認めるなよ。」
俺はまたふてくされると、例に違わず看護師も笑みを溢す。
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