Cold Phantom [前編]

二章第三話 Take three

※※

6月上旬。
梅雨入りが本格的に始まり、ここ最近は雨続きで憂鬱な日々が続いていた。
「ほらっ、もっとしっかり混ぜ込まないとフライパンごと焦げ付くよ!」
「は、はいッス!」
ただ、そんな雨すらはね除ける勢いが店の奥から聞こえてきて、アルバイト中は憂鬱を感じさせない位活気づいてきた気がする。
「ヒロ、あんな調子で大丈夫なの?」
みーちゃんが私に言ってくる。
ここ最近バイトでも顔合わせするようになり、みーちゃんはヒロ君の事をヒロと呼ぶ様になった。
それまでは「猿」と呼ぶのに抵抗があったそうだから、私が「ヒロ君」と読んでいる事もありいつの間にか「ヒロ」が定着したようだ。
「それは調理の事ですか?それとも猿本人?」
そう聞いてきたのはヒロ君の友人里村君だった。
里村君は物覚えが早く元々の顔立ちが良いためウェイター姿も決まっていた。
この半月程ですっかり店の看板役になっていた。
みーちゃんも負けず劣らずの容姿のため、彼ら目的の常連客も増えてきた。
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