Cold Phantom [前編]
「それじゃ行ってくるね。」
そう言って先輩は俺に背を向けてレジに向かった。
俺は改めて先輩に選ばれなかったかぼちゃに視線を向けた。
「お前は先輩のタイプじゃ無いんだってさ。」
と小さく呟いた。
そう思うと、このかぼちゃもなんだか大きくなってしまった子供の部屋の押し入れに入れられたおもちゃみたいな忘れられた存在の様に思えた。
まるで何年も前からそこにいたかのように…。

-ちょっとで良いから、一人にしないで…-

「?」
俺はまた誰かに呼ばれた様な気がした。
入学して間もない時期に聞こえた(助けて…)以来の幻聴だった。
心なしかあの時の声に似ている気がする。
(疲れてる?…まさかな。)
バカらしいと思いながらかぼちゃのキーホルダーに再度視線を向けた。
「一人にしないで…か。」
まさかキーホルダーがそんな事を言う訳がないのは解ってはいるが、絶妙すぎる幻聴のタイミングに何だかそう思わされてしまった。
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