letter
その日の夜……
2人は、行き着けのBAR pupa(ピューパ)に居た。
「手紙?」
「おん。住所も部屋番号も合ってんねんけど、宛名がね…」
「誰になってるん?」
「《向井 春華》…。知り合いに、そんな人おらんし…一颯、心当たりない?」
「陽向に心当たり無いんやったら、私にある訳無いやん。」
一颯は、グラスに残ってる最後の一口を飲み干す。
「そーやんなぁ。誰やろ?めっちゃ気になるんやけど、人の手紙を勝手に見たないし…。」
うーんと唸りながら、カウンターにうなだれる。
「見たらえぇやないですか?」
店長の佐伯が、陽向に声を掛ける。
「店長。でも…」
陽向は、うなだれた頭を上げ、店長に向けた視線を、グラスに落とす。
「何や、陽向らしないやん。あっ、店長。ビールおかわり。」
「はい。」
店長は、一颯のグラスを下げると、冷蔵庫の中から新たな霜付きのグラスを出し、ゆっくりと琥珀色で満たしていく。
「確かに気が引けるんは分かるけど、差出人の名前が無いんやったら、開けるしかないやん。中に書いてあるかもしらんし。」
「そうですね。差出人の方も、住人が陽向さんに変わってる事、知らへんと思いますし。一颯さん、どうぞ。」
「ありがとう。店長の言う通りやで。」
「せやね。帰ったら開けて見るわ。」
ぐいっとグラスを空けると、店長に差し出す。
「ほんまに、陽向は変に気ぃ使いやから。」
「それが、えぇところなんですよ。」
「店長、ありがとう。」
陽向は、子供のように赤い頬を緩ませた。