あなたしか見えなくして
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 カシャン
 花子が濃い緑色の鉄の網に手を利き手である左手をやると鳴った。
 ここは屋上。自分が一人になるには最適な屋上。私はだめな女の子。
 風で花子の長い髪が躍る。花子の視界には自分の住む町が広がっていた。
「君ってだめな女だね」
 後ろから声がした。自称助けてくれた智里の声だった。振り向く。
「私の心の中を悟ったの?」
「さあ、悟ったのかもしれないし悟ってないかもしれない」
 智里はクスっと笑う。花子はなにも返事ができなかった。
「綺麗な夕焼けだな」
「そうだね」
「そっちに行ってもいいか?」
「いいよ。どうせ、泣いてないし」
「ふっ。そうか」
 鼻で笑う。智里は花子の隣に立つ。智里が何故、笑ったのか花子は理解できなかった。
「なに笑ってるのよ」
「面白い女だなって思ったから」
 また、智里は笑った。
「あなた綺麗な笑顔してるね」
「面白い女」
 そう言うと花子の髪を優しく触り、髪にキスを一つした。

 
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