【奏】春に降る雪
「そんな事ありません」




きっぱりと言う私に孝二先輩は顔を歪ませた。




ハルは一度だって私に気があるような言葉を言ったりしていない。


ハルは一途に瞳子先輩を思っていた。


わかってたのに、それでも好きになったのは私なんだ。

諦められなかったのは私なんだ。




『ハルが茜を幸せにしてやれるとは思えない。

だから俺にしとけって』




「………孝二先輩、幸せかどうかは自分で決める事だと思うんです。」




少なくとも、私はーー…




「私はハルの笑顔が見れるだけで幸せですから」




それだけ言って、拾ったペンをデスクの上に戻し、鞄を手にした。




例えハルの笑顔が私に向けられるものじゃないとしても

ハルが笑っているだけで良かったんだって事に今更気付いた。




欲が出てそれすら失ってしまったけれど。




「孝二先輩の気持ちは嬉しかったです。

でも私はもう少しハルの事好きでいたいから」




ハルの笑ってる姿を見て胸が痛まなくなるまでは、ハルを好きでいたい。






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