【奏】春に降る雪
声のする方向を見てみれば、いるはずのない人の姿。



少し上を見上げながら、私が大好きなあの優しい笑顔で、桜吹雪を見つめるハルの姿。




「ど…してここに?」




『俺も社長命令で帰社させられたの。

それで、茜の後を付いて来た』




一歩ずつ、私へと近づきながら話す。




その表情に、泣きそうになった。





だって桜吹雪から私へと、ハルの視線は映っているのに、まだ優しく笑っているんだもん。





もうこんな間近で見ることなんて出来ないと思ってたのに。





『茜、話聞いてくれる?』





そう言ったハルの表情が緊張したものに変わった。






『茜の気持ちに、気付いてやれなくて、ごめん

俺、自分の話ばかりでどれだけ茜を苦しめてたんだろうな』





謝らないでよ。

私がハルの近くにいたくて

側にいたいって思って、話を聞いてきたんだから

勝手に苦しくなって、離れたのも私なんだよ。




「この間言ったよね?ハルは気にしなくていいって。

謝るような事は何もしていないんだよ」










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