朱鷺
「まぁ、すごい。そんなに好きなのによくしなかったわね」
由美子は、着物の襟をいじりながら目を見開いて言った。
「由美ちゃんなら、した?」
朱鷺にとって由美子は倍も年の離れた友人である。分別くさいことを言わない、ひょうひょうとしたこのおねーさん(実はおばさんの年齢だけど)は、口は堅く世界が違うから話し相手にはもってこいの人だ。
「あたし?した」
あっさり肯定されて、朱鷺はまた頭をかきむしった。あーー!!すればよかった!と後悔が押し寄せる。
「でも、朱鷺さんの言うことわかるわよ、軽い奴と思われたくなかったんでしょ。ここでしちゃって、恋人がいるくせにおまえもしたじゃないか、なんて万が一、薫さんとつきあい出して言われたくなかったんでしょ」
「うん」
「あたしだって、それは考えるなぁ」
「由美ちゃんする、っていうけど、彼氏がいたら罪悪感無いの?」
「あるよ。あったよ。でも欲望と好奇心が勝っちゃったの、アハハ」
豪快に笑う彼女は飾りっ気が無い。こんなにあっさり素直におもむくままに行動すればよかった、朱鷺はまたぶんぶん頭を振った。
「ただ、『する』んなら、最悪二人共に嫌われるな、と覚悟はしたよ」
「ばれた?」
「ばれたのと、ばれなかったのがある」
「ばれた時どうなった?」
「私が、怒ってんならひっぱたいていいよ、って言ったら本当にひっぱたかれた、アハハ」「それで、済んだの?」
「まあね、浮気されても離れたくないって思うのは向