朱鷺
それから、朱鷺はこの部屋の家賃を聞き、家電の値段を聞き、光熱費の相場を聞いた。
 由美子は、話しをふってあげようかと、朱鷺の目を見ずに言った。
「誰かと暮らすの?」
朱鷺の心臓がぴくっ、とした。今「誰か」と由美子は言った。「真理と?」とは言わなかった。ばれてる、彼が今度は苦笑いをした。

 「ホテル代ってかかるよね」
 開き直って朱鷺が本題に入った。
「かかるわねぇ、それこそ部屋が借りれそうなぐらいかかるわよね」
由美子はそっけなく言った。
「由美ちゃん、同棲したことあったよね」
「あったなんてもんじゃないわよ、4人の男とそれぞれ合計10年暮らしたわよ」
「どうだった?」
「もう、こりごり、別れて出ていくたびに路頭に迷わされたわ。そんなことより、同居しちゃうとだれちゃって、わがままも出て、ぜんぜん楽しくない。もう嫌」
「・・・・由美ちゃん、もうわかってんでしょ。なんで責めないの?」
朱鷺はやるせない顔でウーロン杯をあおった。
「まぁ、私が口出しできることじゃないでしょう」
由美子は目をくるくる回して、大げさに言った。
「そりゃそうだけど・・・悪いことなんだよね」
「何が?」
「浮気」
「人を好きになることが、いけないことなの?」
「でも、一人いるのに・・・」
「一度に何人も好きになることは、いけないの?」
「でも、浮気は・・・」
「ねぇ、朱鷺さん」
「・・・なあに?」
「それは、浮気なの?」
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