朱鷺
ぁだぁ~」
じゃれつきながら、薫が朱鷺のさっきまで元気だったものを弄(もてあそ)ぶ、やめろよ、と朱鷺が身をよじる。
「してあげる」
「ま、待て、タイム、タイム、休憩、休憩」
かわいい、ベッドの上でじゃれるのが、こんなに楽しいことを忘れていた。相手が誰であれ、新鮮な頃はそんなものだが、今、朱鷺には、相手が薫だからだとしか思えない。
「ねぇ~一緒に住みたいねぇ~」
腕の中にいる薫が、くったくのない笑顔で言った。
「これでも、お料理とか好きよぉ~」
「ほんとかぁ?」
怪しいなぁ、と朱鷺は思った。でも、大好きだった人が裸で腕の中にいて、さらに一緒に暮らしたがっているのは、嬉しい。今度のボーナスを全部使えば、狭い部屋ぐらいどうにかなるんじゃないか、朱鷺は思いをめぐらせていた。
 背中から抱きついていた薫が、朱鷺からは見えない光を放(はな)ちながら言った。
「ねぇ、真理と切れた?」
薫から見えないから、朱鷺もはっきり目に狼狽を見せた。
「自分はぁ~案外束縛屋なんだよねぇ~、朱鷺君はこっちだけ向いてくれなきゃやだぁ」
 
 避けて通れない話しに朱鷺は、見て見ぬふりをしていたかった。甘えてくる薫が、浮気者でいつ自分を裏切って、他の男に行くかわからない。理屈ではそれがわかっている。コイツは、俺一筋なんかじゃない、今だって、どうやって生活しているんだろう。あいかわらず定職についていないようだし。俺も、5千円、1万円、3千円、と渡してしまっている。
 生活のために朱鷺は初めて、自分でご飯を炊いた。職場が近いのを幸いに、昼も帰って食べている。俺の
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