朱鷺
い。自分は、あっさりしている方でやきもちなんか焼かないと思っていたのに。これじゃ、どこにでもいる情けない馬鹿男じゃないか、意地もあって、薫を問いつめることもできない。
 あの救急車の夜、薫に愛されていると思えたのに、なんでこんなことになったんだろう。薫は死にかけるほど、俺を好きでいてくれるんじゃなかったのか・・・

 朱鷺は薫の愛情ばかり疑っていた。でも問題はそこではなく、朱鷺自身の強すぎる薫への思いなのに・・・


 
 「俺、おかしくなっちゃたのかな」
 由美子に朱鷺は愚痴をこぼした。ある種完全な部外者である由美子には、泣き言が言える。由美子は見た目はとても涼しげな、絽の着物を着ていた。柄が透けて、下の真っ白長襦袢の白さが余計浮き出て見えた。自分のことは棚に上げて朱鷺は、この人も変わった人だよね、と思った。今時1年中着物の女性なんてめったにいない、50や60歳のばーさんじゃないのに。
 「好きな人と住んでラブラブでしょうに、やきもちも、のろけのうちってね」
由美子は、薫の行動が気になってしかたがないという朱鷺を、ちょっとからかった。
「由美ちゃんは、やきもち焼いたことがないの?」
「あると思うよぉぉ」
不思議な表現である。
「あると、思う?」
「うん、あったと思うよ。でも、私だいたい焼かれる方だったんで、こっちから焼くひまがなかったな。ふふふ」
そんなに、由美子は浮気者だったのか、と朱鷺は思った。
「いっとくけど、あたしそんなに浮気したわけじゃないよ!むしろしてないよ」
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