朱鷺
できた。
真理とは、大好きでつきあいはじめたわけじゃなかった。告白されて、慕ってくれるのが嬉しかったのと、男の性(さが)と言ってしまえばおしまいだけど、Hする相手も欲しかった。はじめはそれなりに楽しかった。Hもめずらしかった。何より、好きだ好きだと言ってくれるのが嬉しかった。
 真面目な恋人に何度も、たいくつを感じた。一緒にいると必要以上に気を使ってくれるのも、うっとおしいことがあった。たいくつだけならよかった。真理がお金を出し合って、一緒に暮らそうか、二人で出せば結構いいところが借りられるよ、と言い出してうっとおしさが増した。真理に取り込まれていくようで、嫌だったのだ。同棲している二人の共通の友人で、いい所に住んで楽しそうにやっているのもいる。でも、けんかすると嫌でも顔をつきあわせるのは、辛いとも聞く。週に1回のデートでも少々飽きてきたのに、同居なんかとんでもない、と思った。
 朱鷺は、真理のことを本当に好きなんだろうか?と自分を疑い始めた。
本人には言えないが、大好きで始まっていない。よく見ると、失礼ながら顔もスタイルも好みのタイプではない。なのになぜ別れずにいるのか、と自問自答を繰り返した。
 まだ若い朱鷺だが、その時の答えは。カッカカッカするだけが恋ではないんだろう、真理といれば、それなりに安心していられるし、いなくなると思うと寂しい、もしかして将来浮気をナイショでするかもしれないが、帰る所は真理の所なのかな、と真理との仲を肯定した。
 
 せっかく、真理との仲をこだわらず続けようとした矢先、薫からの電話。朱鷺はあわててタクシーに飛び乗った。
 
 通り過ぎる町並みを焦点が合わず流しながら、薫は
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