朱鷺
一人でいるのか?とそればかり気になっていた。薫とはふたりきりで外で会ったことがない。いつも誰かいた。今日もどーせ誰かと飲んでいて、酔った勢いでもう一人呼ぼうと電話してきたんだろう。飲屋街に行くことが断れて良かった、あそこでは顔をさす。薫をまだ知っているやつも多いだろうし、朱鷺自身知り合いが多い、あの町では会いたくなかった。
 どーせ3人ぐらいで待っているんだろうな、だろうな、と言い聞かせながら、一人でいてくれ、一人でいてくれ、と朱鷺は心の中で何度も唱えていた。

 センター街の少しはずれの、人並みのとぎれた所で、薫は一人座り込んで待っていた。タクシーから降りる前に、薫が一人なのがわかって、朱鷺は思わずガッツポーズをとった。
 さりげなく薫以外に人がいないのを目線で確かめながら、朱鷺は薫に近づいた。

「やあ、久しぶり」
「あ、朱鷺君、来てくれたのぉ」
「・・・一人?」
「うん」
居酒屋に入る。朱鷺は味がよくわからない。どうでもいい、たわいのない話ししかできない。最後に見かけて2年以上たっている。なんでこんなに久しぶりに俺を誘ったのか。どーせ、他の奴にも電話したけど、つかまったのが俺だけだったんだろう、と期待しないようにしないように自分に言い聞かす。
 そんな朱鷺の気持ちをいったいどう思っているのか、薫は酔ってくると電話をまたし始めた。酔うと大勢で騒ぎたがる薫なのだ。しかしその夜の電話はことごとく断られた。出ておいでよぉ~と薫が言う、え?今名古屋?無理だねぇ~。隣で一人、また一人来られないとわかるたび朱鷺は胸をなで下ろした。それより先に来るな来るな、と念力を送っていたけれど。
 ふたりきりだからといって、朱鷺は何をするわけで
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