僕にキが訪れる
はっと目を覚ます。

息が荒く、脂汗がじっとりと額に滲んでいた。


夢、か……


しかし、それは幻ではなく。

現実に起こったこと。

忘れかけていた、過去の出来事。

いや、本当に、忘れていた。

それ故、僕は、目の前の幸せに迂闊にもすがりつこうとしてしまった。


愚かな行為だったと、思う。


この一件以来、僕は人を少しずつ遠ざけるようになっていった。

距離を置くようになった。

悟られぬよう、さりげなく。

誰かを裏切って、また失ってしまうのではないか。

その恐怖が、身に染み付いてしまった。
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