僕にキが訪れる
「きっとさ、皆、そうやって生きていくんだと思うの。私はね。
裏切ったり裏切られたり、傷つけたり傷つけられたり、許したり、許されたり。
そうやって、人は生きていくもんなんだよ。
悲しいこと、イヤだけど、でも遠ざけたまんまじゃ、生きていけないんだよ。
イヤなことは、けれどどっかで許していかないと、疲れちゃうじゃない。
認めて、受け入れて、それで少し強くなったり弱くなったりして。
だから、鈴木君も、さ。
何があったのかは全然知らないけど。
……もう、自分のこと、許してあげないと」


……許されることなんだろうか?

こんな僕でも。

優しさに縋っても、いいのだろうか。

頭の隅でそう思う。

けれど、それでも。

僕は、その誘惑に耐えられなかった。
< 163 / 206 >

この作品をシェア

pagetop