僕にキが訪れる
僕はゆっくりと腕を上げ、ベッドの傍にあるものを指差した。

それは、つい最近まで僕が使っていた車椅子。


「つれ、てって、くれ、ない、か……?」


僕の必死の懇願に、しかし彼女は首を横に振る。

泣きそうな顔をしながら。


「だめ、ダメだよ!
キミはもう動いちゃいけないんだよ!?
大体、お医者さんからも止められてるし、そんなの……」


「たの、む……も、う、じかん、ない、から……」


ハッと息を呑む音が、やけにハッキリと聞こえた。

そういえば、耳はずっと正常だったっけな。

もうすぐ聞こえなくなるのか、と、自分の立場を再確認する。


そう、時間は、ない。


だからこそ。



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